大家都合でアパート建替えの立ち退き料の相場は?経験済みの大家が解説
こんにちは。2代目大家のジューニョです。
このサイトではアパートやマンションの賃貸経営を相続した大家さん向けに、満室経営のためのノウハウを発信しています。
大家都合のアパート建て替え時の立ち退き料って必要なの?
立ち退き料の相場っていくら?
払わなくていい場合もある?
立ち退き交渉の流れが知りたいな
今回は実際に立ち退き交渉を経験した現役大家の僕が、このような不安や疑問を解決しちゃいます!
- 本記事でお伝えしたいこと
- 立ち退き料が必要なのは、借地借家法によって入居者の住む権利が守られているから
- 立ち退き料の相場は家賃6か月+引越しにかかる費用
- 立ち退き料は払わなくていい場合もあるけど、非常にまれ
- 5つのステップで考える立ち退きの手順
僕が大家業を継いだ時、全物件約40戸の入居率は90%以下でした。常に5戸前後は空室。
様々な空室対策の結果、満室を達成。年間通して入居率98%以上を維持しています。物件も増やして年間家賃収入は4,000万円から5,500万円に増やすことができました。
さて、今回はアパートの立ち退き交渉について。
先日築50年の木造アパートを老朽化のため建て替えることになり、立ち退き交渉をしました。
つまり大家都合での立ち退きです。
今回は入居者全員が生活保護の方だったため、立ち退き料をお支払いして比較的スムーズに終えることができましたが、場合によっては交渉が難航して全然退去してくれない!なんてこともあるようで・・。
最後の1部屋だけ退去してくれなかったら、家賃収入は激減だし、建て替えは進まないしで賃貸経営は破綻しちゃいますよね。
それではどうぞ!
・大手不動産ポータルサイトのwebプロデューサーを約12年
・不動産会社の代表取締役
・賃貸アパート・マンション・ビルの2代目大家
・年間家賃収入は約5,500万円
・宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士
アパート建て替え時の立ち退き料は必要なのか?
アパートやマンションを建て替える場合は、当然建物を解体しなくてはいけないですから、入居者には退去してもらわなければいけません。
その際に立ち退き料を支払うのが一般的。
じゃあ、どうして払うのが一般的なのでしょう?
立ち退き料を支払う理由って?
立ち退き料を支払うべき理由。
どういうことか?
まずは実際の借地借家法の条文を見てみましょう。
(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)
第二十八条 建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。
※参照「e-Gov法令検索 借地借家法」
難しい言い回しが多いのですが、ざっくり言うと、正当な事由がない限りは、賃貸人=大家側から「出て行ってね」とお願いすることはできませんよ、ということ。
当然、普通借家契約が期間満了になったから更新しません、と大家から言うのもダメですよ。
※後で解説しますが、定期借家契約ならOKです
借りている人からすると住んでいる家を簡単に追い出されてしまったら生活できなくなっちゃうので、借地借家法では立場の弱い賃借人=入居者の権利を保護しているんですね。
まとめると立ち退き料とは、
正当の事由とは?
正当の事由とは主に以下を指します。
- 賃貸人と賃借人の建物の使用を必要とする事情(大家さんがそこに住まなくちゃいけない、など)
- 賃貸借に関する従前の経過(家賃の滞納がないか、など)
- 建物の利用状況(建物を契約にない使い方をしていないか、など)
- 建物の現況(建物の老朽化など)
- 建物の明け渡しを条件として財産(立ち退き料)の給付を行うこと
よく勘違いされるのが、立ち退き料払ったんだから正当事由は認められて退去してくれるんでしょ、という考え方。
入居者との交渉の結果、一定の立ち退き料で退去に納得、となれば大丈夫ですが、問題なのは交渉がこじれて裁判になっちゃった場合。
その場合、立ち退き料を払っても上の1~4の事由が総合的に判断されて正当事由が認められなければ、退去しなくてもよい、という結果になる可能性があるんです。
裁判までいくケースはあんまりないと思いますが、我々大家としては覚えておきたい点です。
立ち退き料の相場はいくらぐらい?
立ち退き料を払う理由を理解したところで、次は立ち退き料の金額についてです。
どういう内訳で、どのぐらい払うのが良いのでしょう?
立ち退き料の相場は家賃6か月分
前述の借地借家法では、立ち退き料の金額は定義されていません。
ただ、一般的には「移転先の家賃6か月分」が相場と言われているようです。
もちろんもっと少なくて済む場合もあるし、もっと要求されることもあります。
あくまで相場なので、ケースバイケースで考えましょう。
家賃6ヶ月分以外に支払う費用
前述の家賃に加えて、以下も支払うことも多いです。
- 引っ越し業者の費用
- 新居の初期費用(敷金、礼金、仲介手数料)
- 移転費用(火災保険やネット移転費用等)
要は、大家さんの都合で引っ越すわけだから発生する費用は全部大家さん持ちね、ってこと。
さらに状況によっては、転居に伴う肉体的や精神的な負担を考慮して慰謝料や迷惑料が上乗せされる場合もあるとか。病気で引越し自体が負担になる、とかですね。
立ち退き料を払わなくてもよい場合もある?
大家としては、立ち退き料はなるべく少ない方がいいですよね。
以下の場合は立ち退き料を払わずに退去してもらえる、かも。
あくまで可能性の話です。
- 建物が老朽化等で住み続けるのが危険な場合
- 入居者に契約違反があり賃貸借契約を解除できる場合
- 定期建物賃貸借契約の場合
建物が老朽化等で住み続けるのが危険な場合
建物の老朽化でいつ崩れてもおかしくない、みたいな状態だと住み続けること自体が危険ですから、改修工事を正当事由として立ち退きが認められる可能性があります。
が、判例を見る限りは正当事由として認めれないか、立ち退き料を払うことで認められるケースの方が多いので、立ち退き料を支払わなくてもよいか言われれると、ちょっと厳しいかもしれません。
入居者に契約違反があり賃貸借契約を解除できる場合
例えば、契約書には喫煙不可とあるのにタバコを吸っていたり、ペット不可なのに飼っていたり、家賃をずっと滞納している場合などは、入居者の債務不履行を理由として、契約解除、つまり退去してもらうことができます。
ただし、裁判になった場合は、大家と入居者の信頼関係が破壊されている状態かどうかで判断されるので、ちょっと契約違反したぐらいだと認められないケースが多いです。
定期借家契約の場合
普通借家契約は正当事由がない限り更新されるの対して、定期借家契約の場合、契約期間満了によって契約が終了となります。
つまり期限がきたら自動的に退去、ということですね。
立ち退きの手順と注意点について
続いては、実際にアパート建て替えによって立ち退きの必要が出た時の手順について。
一般的には以下のステップで進めます。
- まずは管理会社に相談する
- 入居者へ立ち退きの打診をする
- 立ち退き料や時期などの交渉をする
- 転居先を探す仲介会社や引越し業者を紹介する
- 立ち退きの手続きなどをする
1、まずは管理会社に相談する
管理会社を入れている場合は、まず管理会社に相談しましょう。
そもそも管理会社に黙って進めるわけにいかないですし、長年賃貸管理業をやっている会社であれば立ち退きの経験もあるはず。
さらに、普段入居者と直接やり取りしているのは管理会社の担当者ですから、入居者の人となりや生活事情なんかも把握しています。
同じ人に何度も接触すると好感度が上がっていく効果をザイオンス効果と言いますが、入居者としては会ったことない大家さんよりも、何度もやり取りしている管理会社の担当者の方がスムーズに進むはずです。
(交渉の程度はまちまちでしょうが、実際は多くの管理会社や不動産会社がやっているのが現状なんですけどね)
下手すると刑事告訴され、仮に立ち退き交渉が合意されていても無効になったりするようなので、どこまで入居者対応を任せるかは慎重な判断が必要です。
2、入居者へ立ち退きの打診をする
管理会社と相談後、立ち退きの打診は入居者の契約期間満了の少なくとも6カ月前までに依頼しましょう。
理由は、家主が入居者に退去を通知できるのは、借地借家法26条1項により退去日の1年から半年前までとなっているから。
立ち退き交渉は非常に時間がかかるので、戸数が多い場合や揉めそうな入居者がいる場合なんかは、期間満了の1年前には打診しておくのがベストですね。
一般的に最初の打診は「立ち退き通知書」という書面で出します。
内容は、立ち退きの理由や時期などを記載しますが、後々揉めてしまって裁判になった場合の証拠になったりするので、内容や渡し方(内容証明郵便の利用など)は、一度弁護士に相談するのがベストです。
3、立ち退き料や時期などの交渉をする
書面で通知したら、いよいよ交渉開始です。
遠方であれば電話でいいかもですが、基本的には直接会って話しましょう。
こちらから立ち退きのお願いをするわけなので、大事なのは入居者側の立場になって話をすること。
間違っても上から目線でいきなりお金の話をしてはいけません。
参考までに、僕が立ち退き交渉した際は管理会社と協力しながら以下の流れで進めました。
- まずは住んでくれていることへの感謝を伝える
- 立ち退きのお願いと理由を説明する(老朽化のための建て替えなど)
- 入居者の事情をしっかりヒアリングする
- 立ち退き料や時期を提案する(金額は交渉される前提で低めに提示する)
- 承諾を得られなかった場合は、再度訪問し解決案を提示する(書面で)
4、転居先を探す仲介会社や引越し業者を紹介する
交渉の結果、合意が取れたら、可能であれば転居先を探す手伝いや、引越し業者の紹介なども大家自らやりましょう。
入居者が高齢の場合、自力で転居先を探せない方もいらっしゃいますし、立ち退き料を大家側が払うことを知った仲介会社が敷金礼金などをふっかけてくる場合もあります。
他にも賃貸物件を所有しているなら同程度の家賃や広さの部屋を提案してもいいし、管理会社や仲介会社で信頼できる担当がいるなら紹介して転居先を探してもらうのもアリです。
仲介会社や引越し業者は複数件まとめて依頼すると安くしてくれたり紹介料をもらえたりというメリットもあります。
僕の場合は、転居先は入居者ご自身で探してもらいましたが、引越し業者はまとめて1社に依頼し、支払いは直接業者さんに支払いました。その方が入居者さんの手間が省けますし、金額を誤魔化されるリスクもありません。
5、立ち退きの手続きなどをする
交渉の結果、合意がとれ、転居先も決まったらようやく退去の手続きです。
鍵の受け渡しや、敷金を含めた立ち退き料の精算をして完了です。
まとめ
本記事では、以下の内容について解説しました。
- 立ち退き料が必要なのは、借地借家法によって入居者の住む権利が守られているから
- 立ち退き料の相場は家賃6か月+引越しにかかる費用
- 立ち退き料は払わなくていい場合もあるけど、非常にまれ
- 5つのステップで考える立ち退きの手順
立ち退き交渉のゴールは、入居者にしっかり納得してもらった上で、無事退去していただくことです。
自分が入居者だったら、急に取り壊すから出て行って、と言われてたら迷惑だし、不安じゃないですか?
ちゃんと入居者のことを考えた結果として、交渉がスムーズにいったり、立ち退き料を抑えられる可能性もあるわけです。
何より、その点を忘れずに立ち退き交渉を進めましょう。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
ではまた。
こちらの記事もオススメ